私は旅先の遊興施設で、格安のチケットを入手した。
それは猛獣ショーのチケットで、せっかくなので観ることにした。
きらびやかな衣装をまとった猛獣使いが、派手な首輪をつけたトラをうまく扱って、様々な芸を披露してくれた。
大いに盛り上がった。
ちなみに私は、幼少時より落ち着きがないとか
集中力に欠けるとか言われたものだった。
その傾向は今もそのままで、ハデで目を引くショーが繰り広げられている最中でも、
ステージ脇に控えている助手や 看板の色などに気を取られてしまう。
ステージの奥の、ライトがあまり届かないところに うっすら柵が見えた。
裏側へ猛獣が行かないようにする柵?でも、危険を回避するためには、どちらかというとステージと客席の間に必要なんじゃ?などと、
ショーの内容とは関係のないことを考えた。
そもそも猛獣は、猛獣使いによって制御されているはず。手綱もついてるし。
そのステージ奥の白い柵は無骨なものではなく、デザインが施されているようだ。
目を凝らしてよく見ると柵の上部に、矢じりの飾りがついている。
少し右を見ると、その洒落た柵はステージの外にも続いていた。
左を見ると、左にも続いている。見回すとそれは後ろにも続いていて、客席を含めて周囲をぐるりと囲んでいる。
柵の外側、私の背後にも座席があり、ひと目で富裕層とわかる服装の客達が いつのまにか席を埋めていた。
猛獣使いが、ひときわ甲高い声で叫んだ。「さあ!いよいよ クライマックスです!」
猛獣使いの指示棒は私を差した。
さっきまで可愛らしい芸当や炎の輪くぐりをしていた虎が、
私を見据えたまま、
目を大きく見開いた。
…
遠のく意識のなか、思い出した。
そうだ、
私はさっき、チケットを受け取ったとき、お金を払っていない。
お金をもらったんだ。
格安で買ったんじゃない。
格安で売ってしまったんだ。自分を!
いしむら蒼(あおい)