~銀婚を迎えた夏~ ㉞
話があってさ
仕事中に、健一から(メールにて)連絡が入った。
今夜、時間をとれるかという問い合わせだ。
「話があってさ」と続いた。
そもそも今夜は私も健一も外出の予定はなく、
通常通り帰宅するつもりだった。
改めて「時間をとれるか」と確認するなど不思議に思ったが、
突然の行動などいつものことなので、
それこそ、いつも通りに帰宅した。
プレゼンテーション
自宅の居間には、
簡易設置できるスクリーンとプロジェクターが持ち込まれていた。
まるで企業で行われるプレゼンテーションのような画面を映し出して、
なにやら調整していた。
キッチンで夕食の支度をしながら、その様子を見ているうちに、
健一の行動の意図が見えてきた。
会議好き
健一は、「会議」をよく開く。
家庭内では、「第〇回家族会議」、
音楽研究会KKでは「総会」、
臨時議題がある場合は「○〇検討会」などと銘打って、
会議を開くのだ。
参加者の意見を募って集約し、
よりグレードの高い次元を目指した結論に至らしめる…
という流れを先導している…のは、
実際のところ、健一の自己満足だったりする。
個を生かすべし?
結婚当初、
上意下達を嫌い「個を生かすべし」という主張を幾度となく耳にした。
職場、音楽活動、
世の中全般において、そうあるべきだと言う。
でもその主張は、実を伴っていないということを、
私は数年のうちに理解してしまった。
というのは、
一見「個」の意見を尊重しているように見えているが、
それはポーズにすぎないと思ったから。
健一にとってどうでもいいことについては、
「個」の申し出を受け入れて見せる。
そして、
その提案には これこれこういう価値があるなどと褒めたたえる。
そして自説にこだわる場面では
容赦なく他を論破するのだ。
その自説こだわり場面で、
他(家族会議では私や子供たち)の意見を聞き、
取り入れてすり合わせるなど、
見たことがなかった。
ただ、健一自身は「個」を受け入れ、
民主的にものごとを進めている気満々なのだろう。
いしむら蒼