~銀婚を迎えた夏~ ㊱

海外研修

健一が大層な準備をしてまで、「会議」したかった内容は、

海外研修についてだった。

 

期間は半年。まもなく80歳になる父親と共に。

 

健一の父親(地元の教会において熱心な信者で、教会の維持管理や集会での庶務を担当している)が

北欧の神学大学で学べる流れができた。

 

同行する健一自身は、

職場つながりの施設で包括福祉の先進事例を学ぶという。

 

そういえば最近、

北欧での先進的なあれこれを 話題にしがちな健一だった。

 

なるほど、

たしかに、大がかりな準備をするほどの内容ではあった。

 

積極的同意

何をするにしても、健一が私の同意など 実は意に介していないのは、

とっくに理解していた。

 

健一の「てい」としては、

「伴侶の積極的な同意」を得るのが、

この大きな出来事 完遂において重要なプロセスということだろう。

 

積極的な同意を大切にすることで、

相手の協力的な姿勢を引き出し、

自分の望み通りに行動する…、あるいは利益を生み出す。

 

それがビジネス上のテクニックだと、

かつて 言っていたことを思い出した。

 

義父の強い意志

私の同意は 健一にとってすでに織り込み済みだとしても、

無反応もまた、気に障るだろう。

 

だからというわけではないが、

気掛かりな点を尋ねた。

 

高齢のお義父さんは大丈夫なのかと。

 

健一が言うには、

義父のほうが意欲満々で、先走りがちだそう。

 

健一が現実的な方法を提案して、

義父の希望との すり合わせに努めているとのこと。

 

健一自身の「研修」についても十分意欲満々に見えるが、

義父のそれも、強い意志によるものらしい。

 

「人生の終わり際にあっても、

自分なりの力強い一歩一歩を大切にしたい」という

義父本人の言葉があったそう。

 

私は それを聞いて、快く送り出してやろうと思えた。

 

穏やかな義父、義母

ちなみに健一の母親は、

去年、他界している。

 

妻に先立たれた義父は、当初 健康不安を訴えていて、

健一が生活面のサポートに足を運んでいた。

 

私自身、義父にも義母にも良くしてもらっていた。

 

嫁だから気を遣ってそう言っているのだろうとよく言われたが、

二人ともそれぞれに、

私に接する態度が穏やかだったり、むしろ気遣ってくれることがよくあり、

申し訳なく思ったこともあるほどだ。

 

自分の親については

健一の父親のサポートについて私も協力したが、

地理的条件や仕事の流れ、時間のとりやすさなどもあり、

健一が そのほとんどを担っていた。

 

高齢の親の世話を嫁に任せっきりで、

夫は現実逃避しがちなどという事例も そこそこ耳にするが、

我が家については それは 当てはまらない。

 

健一の意思なのか父親の意思なのかは はっきりしないが、

「自分の親については(配偶者ではなく)自分が中心」という姿勢が明確だ。

 

「正しさ」のゆくえ

それについては、

私にとっては「負担が少ない」という点で助かることではある。

 

が、なにか すっきりしないものもある。

 

誰から責められるわけでもないし、

むしろ周囲からは、女性負担に偏らないことについて羨ましがられたりしている。

 

「自分の親は(基本)自分が看るべし」という姿勢は、

正しい気はする。

 

でも、その「正しさ」で全てをくるみ切れないというか、

なにか寂しいような、

申し訳ないような気分になってしまうのだ。

 

いしむら蒼

 

サイコパスの妻 1-㊲ 定例練習のゆくえ