~銀婚式を迎えた夏~ ④
彼氏ができたと はにかみながら伝えてきた娘。聞いている私まで甘酸っぱい思いで いっぱいになり…
なれそめ
「お父さんが心配していた」と伝えると娘は
「結婚を前提に付き合ってなんて、言われてないよっ」と、ポンっと言った。
私は虚を突かれたような気分になった。
そういえば以前、娘から せがまれて、私たち夫婦の「なれそめ」を話したことがあった。
「結婚を前提に」なんて、当時は(ちょっと古風だったけど)めずらしくない話だったと思うが、娘にはピンとこないようだった。
それだけ、「あなたに真剣に向き合ってますよ」「半端な気持ちじゃありません」という誠実な姿勢の表れだとその当時は受け止めていたが、
改めて考えると、自然な気持ちの流れとは何かが違う気がする。
価値観の変遷による違いとも思えるが…。
私の親の世代だとお見合い結婚が大半だったようだ。
私たち夫婦の「なれそめ」は、お見合い結婚と恋愛結婚の中間くらいのもの?
それはさておき、娘の恋とその成就、それを語る華やいだ声は、なにか私にはまぶしかった。
それは私が知らないもの?であるかのように、思えた。
父親あるある
娘からの話を伝えたら、健一は頭を抱えてしまった。
娘を取られたくない父親あるある、そんなところだろう。
私は、娘がこれまでにはなかった種類の幸福感や充実感を味わっていることについて、(心配しつつも)嬉しい気持ちになっていた。
が、父親にとっては、母親とは別で、嬉しいどころじゃないのだろう。
健一は ふいに立ち上がり、飲みに行くと言った。
健一のいきなりの行動もよくあることで、飲み仲間の承諾をすぐに得て、歓楽街へ行くことになった。
私に同行を持ちかけたが、明日も仕事だし、見送ることにした。
娘を嫁がせた先輩
今回の飲み相手は健一の学生時代の先輩で、最近、娘を嫁に出した人だ。
こうして突然の誘いに応じてくれる人脈にも、健一は恵まれている。
勢いがつくと午前様の帰宅になるのは よくある話で、今回もそうなった。
飲みすぎたようで、飲み相手の先輩が、手のかかる後輩を無事に送り届けてくれた。
「こいつも父親の悲哀を一気に味わったようで」「娘に甘い父親は卒業だよな」などと言いながら、玄関へ誘導してくれた。
「こいつ、娘に甘い父親像ってのが好きなんだろうな」と言い、先輩はタクシーを出した。
人として通る道
へべれけになった健一をなんとか 寝床に押し込んだ。
健一は「人として通るべき道だよな」と満足気に言った。
私が「(娘が)喜びを味わえる人生であってほしいよね、私も嬉しくなった」と言うと、
健一は「不幸より幸せがいい」と、淡々と言った。
その表情は、さっきまでの満足気な表情じゃなかった。
その声色、表情のいきなりの変化に、私は違和感を覚えた。
この落差には見覚えがある気がしてきた。
上機嫌、一転、無表情。
そう、いきなりの関心消失。
これはいったい?
いしむら蒼(あおい)
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