~銀婚を迎えた夏~ ㊵
穏やかな義父
めずらしく、健一からビデオ通話で着信が入った。
乗り換えによる待ち時間に、
父親と共に最後の日本食を堪能しているそう。
元気そうな義父の表情も見える。
義父は「いつも お世話になっています」と、
穏やかな笑顔で言った。
義父のこの言葉は、会えば必ず耳にした言葉で、
いつも同じトーンだった。
でも、定番の挨拶という感じはせず、
温かみがある。
私としては、嫁の役割を十分果たせていないという思いがあるのだが、
義父の態度は 相変わらず低姿勢だった。
ルール適用と調整
健一が 電話口に現れた。
「洗濯機の中の仕事着のポケットに、ティッシュペーパーが入ったままなので、洗濯開始前に取り出してほしい」
という用件を言い終え、
会計に向かうということで通話を終えた。
以前、
細かいティッシュの屑を、洗い上がった洗濯物から取り去ることに難儀したことがあった。
というのは、
(健一の衣服の)ポケット点検をしないのは私の落ち度だと責められ、
言い合いになった末、
洗濯機を作動させたのが 健一本人だとわかったことがあり
その後、
観念した健一と共に、
一緒に地道にティッシュ屑を ちまちまと つまみ取ったのだった。
以降、
ポケット点検は
洗濯物の投入者の責任 というルールになった。
要は、今回の電話の主目的は
「ルール適用と調整」の流れだったのだろう。
頻回な更新
改めて健一のSNSを見ると、
すでに数回、更新されている。
外食のたび、新たに何かを入手するたび、
また、ちょっと面白いネット記事を発見しだい、
ちょくちょく健一はネットに上げている。
日常であっても、それらに知人からの反応は次々と舞い込んでいるが、
非日常である旅先の投稿については、
閲覧者の関心を惹きまくりで、健一の人気者ぶりがいっそう高まって見える。
ネット交流に夢中
今後、
健一はその賑やかな応酬の中で 過ごしていくだろう。
これまでも 出張や私的な用事で家を空けたことはあった健一だが、
そのとき、急ぎの件でもない限り、連絡を入れたことがない私だった。
目の前の何かに夢中な健一に、
水を差すように思えたので。
健一は問題なし
健一は これからしばらく
遠くで、元気に楽しくやっていくだろう。
旅先の無事を心配しなくていい。
SNSの頻回な更新で、
写真付きで近況を確認できるのだから。
健一は問題なし。
…
さて、私は?
いしむら蒼
“サイコパスの妻 1-㊵ SNSの頻回更新” への1件のフィードバック