~銀婚を迎えた夏~ ㉕
健一の大ファン
「音楽研究会K K」創立メンバーの智之は、健一の大ファンだ。
音楽性はもちろんのこと、柔軟な発想力と大胆な行動力にも惚れ込んでいるようだ。
また、よく、人格者だと口にしていた。
その理由を尋ねたところ、
「大きな声では言えないが」と前置きした上で、
「分け隔てせず人に接し、貢献度で人を区別しないとこがすごい。
健一のその姿勢を見るたびに、
自分の中の一部に、優生思想的なものがあることに気づいて、
自分を恥ずかしく思う。」と言った。
智之は、ときに理屈っぽいことを言うので、
深く考えず受け流していたが、
親しみやすい人柄で、雑談が ひと区切りするときは、
智之のダジャレで場が和むのが定番になっている。
近所のお兄ちゃん
また智之は、この「音楽研究会KK」とは別の流れで、
私との関わりがある。
智之の父親は転勤族で、
私が小学校入学前からの3年ほど、私の実家の近所に住んでいた。
とはいっても、私の記憶には おぼろげにしか残っておらず、
この「KK」に参加してから雑談ついでに その事実が判明し、
ご近所話で盛り上がったのだ。
智之は私より2学年年上なので、
智之の記憶により、
当時の馴染みの商店街や時節折々の出来事を思い出したものだ。
恵梨ちゃん
智之の妻である恵梨は私と同い年で、
「ちゃん」づけで呼び合う仲だ。
健一が所属した吹奏楽部で同じ楽器を担当していた、
いわば健一の直属の後輩だ。
その縁から「KK」創立の流れに加わり、
一緒に活動することになった。
部活動での頃そのままに、
今でも健一を「健一先輩」と呼んでいる。
また、この「KK」活動を通して智之と出会い、
結婚にも至った。
当時はそのビッグカップル(私たちの間では)誕生に大いに盛り上がり、
婚約に至っていた私達と
ダブルデートのように過ごしたこともあった。
健一は遅刻
「今日持参すればいい楽譜は、この曲集で良かったよね?」
智之が私に問いかけてきた。
「それで問題ないはずなんだけど、なんか別の版を見つけたらしく…。
健一ったらその入手分を今日の練習に使おうと
奔走しちゃって、
今日は遅刻になりそう…」
私は、恐縮しつつ答えた。
智之は連絡係を引き受け、
練習期日や場所、持参物について
「KK」団員にメール等で伝達してくれている。
そのせっかくの流れが、
健一の気まぐれで滞ったり、
あっさり変更になったりするのは めずらしいことではなかった。
でも智之も他のメンバーも、
例によって「健一だもんな」で済ませてしまうのだ。
我々もアラフィフ
「沙耶ちゃん、体調とか問題ない?」
駆け寄ってきた恵梨が言った。
今日は暑いので、
水分補給の足しにと
手製の「はちみつレモンドリンク」を持ってきたそうだ。
恵梨は手製のスイーツをふるまってくれたり、
寒いときは上掛けの予備を持参してくれたりなど、
面倒見の良いひとだ。
「我々もアラフィフだし、気をつけなきゃのお年頃だよね。」と笑った。
そうこうしているうちに、
入団3年目の望月くん、
去年入団の祥子(私と職場での関わりあり)らが、
次々と到着した。
いしむら蒼
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