~銀婚を迎えた夏~ ㉟

巧みな弁舌

なんの会議であっても、

健一は自身の巧みな弁舌を存分に披露し、

周囲は簡単に論破されてしまうようだ

(健一の同僚や友人の話から推察)。

 

そんな場面を数回経ると、

周囲はもはや、健一の主張に異論を差しはさむ意欲などなくなり、

会議は健一の独壇場となる。

 

健一が出す案は、先鋭的だったりするため、

新時代を切り開くかのような感覚で会議を終えたりもする。

 

が、それが後の大きな成果につながった印象はない。

 

皆の合意を根底から

健一は自分のホームグラウンドである「KK」のみならず、

一会員にすぎない所属場所での会議にも、

積極的に参加している。

 

なかには、

日常の活動には ほとんど不参加なのに、

「参加率の多少は発言力に影響するべきではない」などと言い放ち、

重要な議題での皆の合意を

根底から覆すような発言をしている

(健一本人から聞いて、冷や汗が出る思いをしたことがある)。

 

楽しく前進?

仕事でも趣味活動でも こんな調子だ。

 

でも、全体への苦言を呈することもあるが、

場を盛り上げ 爆笑必至のような小ネタもはさむため、

全体としては、なにやら楽しく前進している雰囲気になったりもする。

 

健一の主張や態度に不満を持つ人もいるだろうが、

全体としては どうにか収まっているという現状だと思う。

 

異論など

居間に設置したスクリーン上に、

タイトルが映し出された。

 

「第21回 家族会議」と ある。

 

プレゼンテーション資料を作ってまでもの

「家族会議」は初めてだ

(これまでは「レジュメ」らしきものが提示されたくらいだった)。

 

それだけ気合の入った内容、

つまり、家族(今は私ひとり)の同意を得るためのハードルが高い議題なのだろう。

 

私はとっくに、

「異論を はさんだところで無駄」という認識を持っていたので、

成り行きに任せようという気分になっていた。

 

夕食の支度もそこそこに

これまで、健一の主張には ほとんど逆らわずに応じてきたが、

子育てに関しては ときに どうしても譲れないことはあった。

 

私に強く反論された健一は、「母親だもんな」と言い残し、

どこかに行ってしまったものだ。

 

どうやら健一の中では、

「自分に逆らう妻 = 母親の意地」となっているらしい。

 

そうなったときも もちろん、

相談だとか建設的な意見交換だとかは存在せず、

「母親の意地」には逆らえずにいるうちに忘れてしまった?ように思う。

 

そして今は、子供らも いない。

 

私は夕食の支度を早めに切り上げて、

食卓についた。

 

「早く済ませてくれていい」、そんな気分だった。

 

いしむら蒼

 

サイコパスの妻 1-㊱ 海外研修