~銀婚を迎えた夏~ ㊶

混乱し通し

今月の初め頃、差出人不明の手紙が私に届いた。

 

それ以来、そしてその手紙を読んで以降は特に、

私は混乱し通しだった。

 

健一と共に暮らせそうもない、そう思ったりもした。

 

おかしいのは健一の方?

いや、そうは思えないなどと、

ずっと、

自分の中で押し問答を繰り返してきた。

 

そして、「健一も私もおかしいのでは」と思ったのが、

つい最近のこと。

 

これまで通り?

この二週間余り、

健一と これまで通りに暮らしては きた。

 

でも、あのネットカフェから戻ってからの生活は、

表面上の「これまで通り」を なぞりつつも、

不安定な内心を抱えたものだった。

 

いろいろなことに気を取られてばかりの健一に対し、

自分自身がグラグラした状態のまま

疲れたり笑わされたりしていた。

 

そうして 健一のペースに乗っかったままでは、

私は私自身を見つめ直すなんて できそうもない。

そう、そういう日々だったと思う。

 

私にとって

健一の方が 離れてくれるのは私にとっては助かること…。

 

どうやらそれで ちょうど良いのではないか。

 

差出人不明の手紙の件以降、私は、

自分のこれまでの(健一と関わった)人生まるごと、

ひっくり返されたような気分になっていた。

 

自分自身が何であるかさえ、

わからなくなっていた。

 

いったん、この喧騒から離れなければ、

自分の足で立っていられないとまで思った。

 

いっそ、

私自身を 遠いどこかに置き去りにしたいとも、思った。

 

自分がわからない

自分がわからない。

 

たった今も、自分がわからない。

 

だって、家族が、伴侶がいないというのに、

寂しいという感情がない?のだから。

 

でも、それについて

なぜ?どうしてと考えなくていいんだ。

 

だって、

急がなくても、どうやら誰にも迷惑は かからないだろう、そう思えるから。

 

健一について、私について、

考えたくなければ、先送りにしていいんだ。

 

考えたければ考えてもいい。

そして、考えなくてもいい。

自然にそう思える。

 

とたんに、気が楽になった。

 

ふんわり淡い

テレビを点けたまま、

居間のソファーに横になった。

 

夢を見た。

 

子供たちや、友人、私の両親・身内、KK仲間が

私の周囲にいる夢。

 

私の周囲にいるひとたちは、

なにか ふんわりと 私の近くに居る。

 

淡く温かい色。

 

近すぎず遠すぎず

でも、手を伸ばすと触れることができそうな。

 

その感触は心地よさそうな印象だ。

 

この夢は、以前も みたことがある気がする。

この夢の世界は、

実はこれまでも ずっと継続して在った気がする。

 

それなのに、この色があったことに気づいていなかった?

 

そんなような気がした。

 

いしむら蒼

 

サイコパスの妻 1-㊷ 娘と息子