~晩夏 サヴァン~ ①

きれいに保つ我が家

8月も中旬になった。

 

日々の仕事に加え、子らとのやりとり、

友人と会食、久々の里帰りなどで、

けっこう あっという間に半月経ってしまった。

 

健一とは、義父が所有している貸し家についての問い合わせ対応で、通話した。

 

互いに「異常なし」を確認して、速やかに終えた。

 

私は、「自分のための料理」が 思いのほか楽しくなっていた。

 

きれいに保つ我が家というのも、良いものだ。

 

高い位置の窓から空を仰いで、

大の字に寝そべるのが心地よい。

 

ゆっくりと朝食

今朝、一輪挿しの水を替えた。

テーブル上のそれには、庭先で摘んだ小さな花を生けていた。

 

残り物の後始末ではなく、

朝食用に用意した食材を調理し、ゆっくりと朝食を摂った。

 

支度を整え、戸外へ出た。

 

夏の朝は陽が高く、

仕事に向かう足取りは軽い。

 

今日の仕事先は、長時間の車移動を伴う。

 

海岸沿いのドライブを 楽しめそうな上天気が、嬉しい。

 

幹線道路に出ると

街なかを過ぎ、幹線道路に出た。

 

そういえば以前、信号やら自転車、歩行者らへの配慮が不要な幹線道路に入ると、

いきなり涙があふれる、そんな経験があった。

 

また、台所で食器洗いをしているとき、

ふいに泣けてしまうこともあった。

 

いずれも、

運転が嫌だとか食器洗いがつらい、というわけではない。

 

どうして泣けてしまったのか、

理由もわからないままだった。

 

「あれ?なんで私?」

そう思い、涙をぬぐったのだった。

 

そして、状況が変われば すぐに次の流れに気をとられ、

泣いたこと自体から 遠ざかっていたように思う。

 

海岸沿い

今日の移動は、

長い間、幹線道路を走る経路だ。

 

景観の美しい海岸線をたどった。

 

青い海のところどころにある岩礁は、

穏やかな白い波と共に動く 海水の中にそびえている。

 

車を進めると景色が変わった。

 

岩礁群は途切れ、

砂浜が長く続くようになった。

 

ずうっと続く砂浜。

 

湾から外海に出たせいか、少し波が高くなっている。

 

とめどない うた

その景色に誘われるように、歌を口ずさんだ。

 

「海は荒海 むこうは佐渡よ」…

「砂山(中山晋平作曲)」の冒頭を。

 

軽快な伴奏を伴う本来の速さではなく、

どこまでも続く海岸線に沿うように、

ゆっくりと歌った。

 

幼少時の、祖母との思い出を伴う、

懐かしい歌だ。

 

砂州が伸び、沖へと続いている。

 

それを見ながら、

さらにゆっくりと歌った。

 

声楽家のような熟練した腹式呼吸ではないため

(そもそも運転のついで)、

吸い込む息の量は少ないまま、

鼻歌ぐらいのボリュームで、

とめどなく ずっと。

 

 

 

いしむら蒼

 

サイコパスの妻 2-② 息の長い弱音