~銀婚を迎えた夏~ ⑫
起業
息子について、話を戻す。
息子は現在大学4年生。
実は就活において、同級生らに大きく後れをとっている。
去年、健一の勧めでスタートアップ起業に力を入れていた。
でも結局目標達成には至らず、その夢はあきらめた。
少々の準備金は健一が自分の財布から用立てていて、大金をはたいて大損するなどの憂き目には遭わずに済んだので、
ま、人生経験を積んだというまとめ。
そもそも不向き
息子は 「攻め」より「守り」というタイプなようで、
幼少時からずっと、健一に対して反抗することもなかった。
息子本人の意に沿わないことを健一から立て続けに言われても、
困り顔のまま黙り込むだけ。
健一はよく、「手ごたえがない」だとか、「もっと向かって来いよ」と口にしていたが、
本人の持ち味は 変わりようがなかった。
だから、そもそも息子は、起業などというアグレッシブな取り組みに興味がなさそうに見えていた。
でも、健一と共に、息子本人の新たな一面を作り上げていくなら、
それを見届けたい気持ちはあった。
とはいえ結局、やはり息子には不向きだったらしい。
他の学生らが就職先内定の報を得ている中、
今、遅ればせながら就活に取り組んでいる。
1年や2年の回り道でガタガタしなくていいと励まし、見守っているところだ。
起業をやりたいのは
それとは別に、健一が起業に強い関心を示していたことを思い出した。
活躍している学生起業家がメディアで紹介されていた時だ。
自分が学生だったら試してみたいあれこれを、勢い込んで語っていた。
息子に自分のやりたいことを代行させた?という気が しないでもない…。
息子は、ただ健一に乗せられていただけかもしれない。
起業について夜通し打合せしていたこともあり、てっきり、息子も健一と同じテンションで時間を忘れて盛り上がっているのかと思っていた。
けど、子供時代と同じで、ただウンウンと聞いていただけだったのかもしれない。
お父さん、ごめんね
息子から起業頓挫の報を聞いたのは健一だったが、私への詳しい報告はなかった。
「ま、そういうこともあるだろう」と言ったっきりだった。
健一の切り替えは早かった。
意欲満々に見えていた健一は、急に潮が引くように関心を失った。
起業ということ自体への興味もなくなったようだった。
その様子は、ただ単に「やるだけやって飽きた」という感じですら、あった。
息子の気持ちをフォローする様子などは、見られなかった。
健一は自分の思いのみで息子を追い立てただけ?
息子の表情や声色に配慮もせず…?
あとから、「(起業の夢が潰え)お父さんごめんね」と つぶやいていた息子。
当時の健一の様子を言葉にしてみれば、「つまんねえの」「ま、いっか、次」、そんな感じでもあった。
私は、健一の暴走?を許してしまったのか?
次に息子に会うとき、私はどんな顔をすればいいのか、わからなくなってきた…。
いしむら蒼
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