~銀婚を迎えた夏~ ⑪

プロジェクトS

息子への訓示で健一は、

要は、省ける無駄は省いて結婚相手を手に入れるよう進言していた気がする。

 

健一は、結婚前にお互いのことを話し合うなんてプロセスは、面倒なものと思っていた?

結婚する気がないなら、さっさと次に行くからさ、とでも思っていたのだろうか?

 

そういえば、結婚後5年経ったあたりだろうか、ひょんないきさつから

「プロジェクトS」という計画書のようなものを、見つけた。

 

その内容には、私たちが出会ったの頃の出来事がフローチャートで書かれていた。

 

私の職場関係者に健一の知人もいて、そのつながりで私の出身大学を知ったこと、

「ナンパです」と現れた日は、予め私の研修終了時間を把握していたこと、

交際申し込み成就後、その協力者的知人と祝杯を上げていたこと

 

それぞれのタスクに詳細が追記されていて、

「氷をガラガラかきまぜて子供っぽさを敢えて演出」などと、あった。

 

用意周到は大事

健一にそれを見つけた旨を話すと、

「人生の重大プロジェクトだから、確実な成果を得るため 真剣に取り組んだんだ」と、

淡々と言った。

 

「用意周到は大事」と つけ加えたその表情は、

今から思えば「どうだ俺様の実行力は」と言いたげだったようにも思える。

いや、「結果が出てるんだから いいじゃないか」の方が近いかもしれない。

 

プロジェクトSの「S」は、私の名前の頭文字か、と思いつつ、そんなことはどうでもいいと思った。

いや、どうでもいいってのは、頭文字じゃなくて、

もう、何がどうでもいいのか、わからなくなっていた

 

大切な思い出は

そういえば このとき私は、嫌な気分になっていた

(自分の気持ちなのに、後で気がつくことが この頃多い)。

 

でも、女子同士が恋バナに盛り上がり、意中の人への告白場面に友達を付き添わせるなどの

「女子あるある」と似たようなものだと、自分に言い聞かせていた。

 

とはいえ、男同士が結託して目標達成に取り組むのは めずらしくない話だとしても、

その証拠を突き付けられて自慢気?って、何かが違う。

 

その認識を経たら、自分にとっての大切な思い出が、

とたんに色褪せたものになっていった。

 

 

いしむら蒼

 

サイコパスの妻 1-⑫ ただの暴走