~銀婚を迎えた夏~ ㉚

楽しく取り組んだこと

「KK」の中心人物の妻である私は、

ときに健一のフォローをし、

それ以外にも、皆が気持ちよく活動できるように心がけてきたつもりだ。

 

誰かがお土産を持参すれば 皆に行き渡るように配慮し、

食べがらの処理も引き受けた。

 

新人が入れば早く馴染めるよう率先して声をかけた。

 

恵梨や真央と共に、

ちょっとした団内行事の準備や後片付けをした。

 

メンバー全員に、気分よく過ごしてほしいと、

いつも心がけてきた。

 

どれも嫌々やったことなんてない。

 

そういえば、

それについて健一から労いの言葉をかけられたことはないが、

私自身、楽しく取り組んでいたことだ。

 

抱えているなにか

それなのに、実は私が、メンバーを疎んじている?

 

特定の誰かを?

 

ひょっとしたら全員を??

いや、違うと思う。

 

根拠は わからないけど、全員じゃない。

 

たぶん、何かの条件付けがある。

 

ただいずれにしても、

私はメンバーが来てくれることについて、

100%の受容じゃないんだ。

 

私は、心のうちに、

メンバーに詫びなければならない何かを抱えているのか?

 

なんぴとも

皆の歌声が聴こえる。

 

健一の天上に届くかのようないつもの声と、

それに追従するような皆の声。

 

この穏やかな音群に、

私も戻らなければ。

 

なんぴとも受け入れ、許す、

そんな聖歌が複数旋律、織りなされている。

 

なんぴとも受け入れ

…100%の受容…

健一は、そうだ。

確かに、健一、そう。

 

 

私は健一と同じではないんだ。

 

そう思うと、

ずいぶんと自分は安っぽい人間だと思える…。

 

自分について、逃げずにちゃんと考えなければ

と 思いつつも、

暗くて奥行きの深すぎるその先を考えたくない。

 

逃げたい。

 

耳に入る歌声の中に、

この音空間に早く戻らなければ。

 

穏やかな音空間

私は、皆と同じ場に居てはいけないような気がして席を外したのに、

自分の正体を確認するのが嫌で、

また、穏やかな音空間に戻った。

 

私の内心など、皆は知るはずもない。

 

教会の高い天井に響いては降りてくる音群と共に、

皆の一員に戻った気分になった。

 

定まった結末への途中経過を味わう、

そんな音楽が心地よくはある。

 

それを歌いながら聴きながら、

窓から見える景色をぼんやりと眺めた。

 

私は何者?

自分の中の罪を許してもらう、

そんなような歌詞を、私たちは外国語で歌っていた。

 

私は何者なの?

誰かに害を及ぼしかねない者なの?

自分の中の負の感情に戸惑っている私を、

遠くに追いやりたかった。

 

逃れたい、苦しみたくない、許されたい…。

 

ふと、

最近、私のもとに訪れた相談者のことを思い出した。

 

その相談者は、

憎しみの感情を抱いてしまう自分自身を、嫌悪していたのだ。

 

仕事で関わる人を思い出したら、

なぜか私は、少し楽な気分になれた…。

 

 

いしむら蒼

 

サイコパスの妻 1-㉛ 不穏な感情